「でもねえ……ことしになってからなつくんきてくれない。ぜったいまたしょうぶするっていってたのに、なつくんこない」
唇を噛んで、膝の上に置いた手をぎゅっと握り締めるコウトくんは今にも泣いてしまいそうで、小さな背中を優しく摩る。
こんな小さい子を泣かせるなんて、何考えているのだろう。
居なくなるなら、“絶対”なんて約束はするべきじゃない。不慮の事故ならまだしも、夏哉が死んだのはすべて彼の意思だ。
また会えると信じて泣きそうなコウトくんに、もう会えないのだと現実を突き付けることは、わたしにはできない。夏哉がわたしに託したものがそれを伝えることなら、わたしはこの頼まれ事を降りようとさえ考えた。
「コウトくん、わたしね、夏哉から手紙を預かってるんだ」
「なつくんから……?」
「うん。コウトくんに渡してって」
ほんの少し顔を上げるけれど、まだ眉を下げて瞳を潤ませるコウトくんに真っ白な封筒を渡す。コウトくんは慎重に封を破って、便箋を取り出した。開く前にわたしを見上げて、不安そうに眉を下げる。
「よんでいいの?」
「うん。だってそれコウトくんへの手紙だもん」
読んでいる間は話しかけないようにしようと、色とりどりの遊具を見渡す。
わたしが幼稚園に通っていた頃は、こんな小さな庭が世界のすべてみたいに見えていた。駆け回っても、外には出られない気がして、この中だけがわたしの世界のすべてなんだって。
そういえば、一度だけ夏哉と幼稚園の敷地を抜け出したことがある。あのとき、わたしは確か大泣きしていたのだけれど、夏哉はどうしていたんだっけ。
「おねえちゃんもいっしょによもう?」
「え?」
「いっしょによんでってかいてる」
思い出しかけた記憶の中の幼いわたしと夏哉の姿は掻き消えて、コウトくんが差し出してきた便箋に目を落とす。
最初の一行に『おねえちゃんといっしょによんでな』と書かれていて、それ以降は漢字を混じえて綴られていた。
これは読めないはずだ。最初からわたしにも読ませるつもりだったのもしれない。
便箋を受け取り、コウトくんの目線の少し下に高さを合わせて腰を屈め、一文字一文字、ゆっくりと声に出して読んでいく。