「君、誰?」
目の前にいるそれは、幽霊ではなかった。
幽霊なんて思い込んでしまっていたことが失礼なんだけど、冷たくて氷のような眼光に睨まれてしまった。
「……ねぇ、聞いてるの?」
私が何も言わないからか、その人は眉根を顰めてなんか不機嫌そうだ。
「君、もしかして新入生?」
「え? は、はい……?」
「ふうん……。で、ここには何か用なの?」
淡々とされる質問に、しどろもどろながら答えていく。
「えっと、用というか……白猫を追いかけて、ここに来ました」
見たところこの人以外にここに誰かいるようでもないし、あわよくばこの人から帰り道を教えてもらえたらラッキーなんて思っていた。なんかちょっと怖そうな人だけど。
「さあね。猫なんてここにはいないよ。新入生だから知らないだろうけど、ここは僕以外立ち入り禁止だから」
そんなことを言われ、私が猫のように図書室から摘み出されてしまった。迷い込んだ猫のように廊下に放り出されると、ピシャリと背後で扉が閉まる。
何あれ? 図書室があの人以外立ち入り禁止って………何じゃそりゃ!?
追い出された扉の前で、呆然とその場に座り込むことしかできなかった。
猫も見つからないし、迷子だし、ここには話を聞いてくれる人もろくにはいないのか。さっきの人はちょっとだけかっこよかったけど……。
そんな余計なことを考えていたら、すっかり油断していたのは認めるしかない。いつしか私の背後にいたそいつらの熱量に気づかないなんて。
「藤澤殿、理事長殿があなたを拉致して来いとのことです!」
紛れもなくボランティア委員会の御三方だった。毎度毎度、暑苦しいご登場だ。なんてボヤいている間にも、その分厚い筋肉の塊の腕でズルズルと私の身体は引き摺られていく。
「いーやー! だれかあああぁぁ!!」
私の必死の抵抗も虚しく、長い廊下に消えていった。