「ただいまー」と一言、玄関で靴を脱ぐと部屋に閉じこもり、お気に入りの音楽をスピーカーで聞きながら早速白雪姫の読書に入ってみる。
これもあの読書の魔人こと高雅さん効果なのだろうか、読書感想文だって真面目に取り組まなかったのに、気づけば高雅さんの真似をしてちょくちょく本を手にとっている。恐ろしや、高雅さん効果……肝心の頭の方は、まだ効果を実感できていない。
さてと本のページをめくり、比較的大きな字で書かれた本文に目を通していく。
この本自体はそれほど分量があるわけではないが、問題なのは私が普段あまり本を読んでいないことだ。児童書もコミック本二冊程度の厚さだし、内容も回りくどい表現や言い方はしていない。
しかしこれ、果たして今日中に読み終わるのだろうか? 宿題はそれだけではなく、さらにこの内容を一言一句覚えろって? うん、無理だろ。世の中の人の頭があなたのように都合よくできているわけじゃないんだし。私はその平均以下の頭だし。
どれだけ彼への愚痴をこぼしたところで、宿題をしてこなければシメられるのは確実である。槍千本はさすがにこの身体が持たないので、何も言わずにおとなしく読書をしよう。
その内容は記憶の中の物語と大きく変わりはない。
綺麗な白雪姫は継母に妬まれて殺されそうになるけど、心優しい猟師に助けられて、その後は7人の小人達と出会って、彼らと楽しい生活を送る。
ページの間に挟まれたモノクロのイラストには、小さな小屋の中で白雪姫と小人達が仲良くテーブルを囲んでランチをしている姿が描かれている。
小人ってそのままに、身長がみんな小さくて可愛い。こんな絵に書かれた空想上の人達が、高雅さんの魔法のような力で、現実に出て来るんだからすごいことだよね。
じっとモノクロのイラストを眺めてみる。
絵の中ではピクリとも動かない登場人物たち。
私はその時ふと心に湧いた物心というか、そういう感じの好奇心から目をそっと閉じて顔をページに近づけると、そうして本のイラストに軽く唇を合わせた。
すると――
…………特に何も起こらなかった。
まぁこれが普通なんだけど、なんだろう……この虚無感……。
心にぽっかりとした何かができた気がして、しばらく空虚な思いに浸った。
バカらしい、イラストから実体が飛び出してくるなんて……本人にこんなこと言ったら秒も待たず瞬殺されるから、ここだけの話にしておくけども。