「申し遅れました。私、執事の白八木にございます」
メエ〜と今にも鳴き出しそうなビジュアルのそれは、ご丁寧に挨拶をしてくれる。軽い早口言葉みたいだ。
「し……執事……? 羊じゃあ……」
「白八木です」
「ひいいいっ!」
触れてはいけないところに触れてしまった白馬先生が、無の境地の白八木さんにじりじりと詰め寄られていた。
あれはとても可哀想だった。白馬先生があれほど顔を青ざめたことがあるだろうか。まあ、二人とも今日初めて会ったんだけど。
その場は一時騒然としたけれど、白馬先生がすぐに折れて全力で謝罪をしたことで収束がついた。
「では改めて、私が提案した演劇はいかがでしょうか」
「ひいいいっ!」
白馬先生はすっかり白八木さんのビジュアルにトラウマを植え付けられてしまったらしく、今にも泡を吹いて倒れそうだ。
しかし教師の面子もあり、生徒が見ている前で彼も引き下がるわけにはいかないらしい。白馬先生が意地を見せる。
「いや、いきなりしゃしゃり出てきて部外者の意見を聞くわけにはいかねえな。納得する理由がほしい」
さっきまでの小鹿のような足を奮い立たせ、白馬先生は凛々しい顔つきで言い返す。
最もらしいことを言っているが、ここに入学して間もない部外者を巻き込んでいるあんたが言えるのかという本音はここでは飲み込んだ。