校内にはホームルームをお開きにする合図のチャイムが鳴り響く。
 それと同時に、私は教室を勢いよく飛び出した。またあのボランティア委員会の輩がやって来て拉致される前に先手を打った。私はこのエリートの魔窟から抜け出すため、人目を気にしながら人がいない場所を求めて廊下を迂回した。
 けど、私の考えは甘かったらしい。都内トップの高校は、お世辞なんかじゃなく広い。

 私は高校生の年齢にして、どうやら校内で迷子になってしまったらしい。
 し、仕方ないじゃないっ。少し考えたら、ここに来たの初めてで教室の場所とか知らないしっ。
 自分がいる場所がどこかもわからなくなって、薄暗い廊下の向こうを見ているとなんだか不安になってくる。初めての場所ってみんな怖いよね?


「ミィア〜オ」

「ひっ!」

 背筋をビクつかせてすぐに身構えると、すぐ後ろにある階段の手摺りに、さっき見た白猫がいた。
 てっきり三階の窓から落ちてそのまま……と思っていたけど、怪我をしている様子もなくて安心した。それにこの状況で猫ちゃんがいてくれるのは、非常に心強い。今はとにかくぬくもりがほしい。

 しかし猫ちゃんは私を置いて、階段の手摺りを駆け上がろうとする。しなやかな四足の足が階段を駆け上がる姿に、つい目が奪われてしまう。
 いや、見惚れている場合じゃない。こんなところでひとりぼっちなんてたまったもんじゃない。白猫の後を追いかけて、私も階段を昇った。当然帰り道などわかるはずもなく、もうヤケクソになって目の前の白猫を追いかける。
 なのに階段を上がりきったところで、白猫を見失ってしまった。

 ううっ……もうダメだ。ここで力尽きてしまうんだ。お家に帰りたいよう……。

 目の前にあるのは、長く続く廊下と、教室の扉だけ……プレートには『図書室』と書かれている。バカとは無縁の場所だ。うぅ〜、お母さあん……。


 けれど、その時、私は確かに見た――図書室の扉が、開いているのを。それも、ちょうどあの白猫が通れるぐらいの隙間だった。

 ちょっと中を覗くだけ……と、図書室に近づく。ゆっくりドアをスライドして、中を覗いてみる。ほんの出来心だったのに、私の意識はあっという間に図書室の中へと吸い込まれた。