黒猫ちゃんは高雅さんにおねだりして無事に本から出してもらった。
 今は高雅さんと白馬先生と私を含んだ三人で、ラウンド・テーブルを囲んでティータイムの真っ最中だ。

「それで、あなたは何平然と一緒にお茶してるの」

「ふ? はんはひっはは?(ん? なんか言ったか?)」

「……………」

「あはは……」

 高雅さんは白馬先生と一緒にお茶をするのが大層嫌そうだ。
 その白馬先生は高雅さんのあからさまな態度など意に介した様子もなく、私が焼いたマドレーヌを口いっぱいに詰め込んだ。それを高雅さんの紅茶で流し込む。

「本当に美味いな、このマドレーヌ。こんな美味いもん作れるなんて、桃香は将来きっといい嫁さんになれるな」

 あの白馬先生からそんなにストレートで褒められたら、多少の食べ方など気にしなくなる。むしろ子供のあどけなさがあるのがまたいい。
 けどそこに、水を差すのが高雅さんだ。
 
「料理ができるからって、いい嫁になるかは限らないんじゃない。そもそも底辺を貫く君が、結婚できるかが第一の課題だね」

 ちょっとどういうことですか、高雅さん。
 こんなに毎日あなたのために献身的にお菓子を作ってくる私に向かってよくそんな口が利けましたね。明日から作って来ませんよ。
 それにまだ彼氏はできたことはないけど高校生にもなったし、もうすぐ運命の相手の一人や二人出て来てくれなきゃ困る。
 そう、きっともうすぐ――……。

「……お花畑してるとこ悪いけど、君の場合料理以外の家事がまともにできなくて、愛想尽かされそうだ」

「あんた人の思考でも読んでるんですか!? しかも何を根拠にそんなことを……もうおやつ抜きにしますよ!」

「じゃあこれで講師の件も白紙に戻るね。お疲れ」

「ぐぬぬっ……高雅さんの意地悪っ!」

 これでこの屁理屈ヤローも黙るかと思いきや、見事に返り討ちに遭った。肩の荷が降りたように優雅に紅茶を啜りやがって……。