「ミャア」

 しかし自分が仮入学でここにいることもすっかり忘れてて、足元でまん丸満月お瞳々を覗かせる白猫にパッと目を奪われた。
 私があげた首輪を今日もしっかり付けて甘えに来てくれる。鳴き声も可愛い。
 私もそれに応えるように白猫を抱き抱えて、整った毛並みをなでなでする。猫ちゃんは気持ちよさそうだ。

 ただ、この感触はとても()()()だけど、この白猫《こ》は()()()()()ものなんだ。
 こうして抱いている重みとかぬくもりとか、まったく違和感はないのだけれど、実際はこの世に存在しないものとして扱われるらしい。つくづく不思議だ。肉球もプニプニで気持ちいい。まさにファンタスティックな現象である。

 ふと気がついた。
 白猫ちゃんと一緒にいる黒猫ちゃんがいないではないか。

 辺りを見回しだけど、やっぱりいないようだ。
 しかしあっちもまだ決着が着いていないようで、間に入りにくい。けどこのまま放置しても日が暮れるだけだ。図書室では静かにしろって言ったのどこのどいつだ。


「高雅さーん! いい加減降りて来てください! 図書室で静かにしろって言ったの高雅さんですよ! あと黒猫ちゃんはどこに行ったんですかあ?」

 精一杯声を張り上げたら、彼の方がチラッとこちらを見てくれた。右手は長槍で白馬先生の攻撃を食い止めているが。
 
「ふうん、君は自分のテリトリーに害虫がいたままで、健やかに暮らしていけるのかい。やっぱりバカが考えることはよくわからないな」

「てめっ、高雅! 誰が害虫だ!」

「あと黒猫なら、まだこっちに呼んでないからいないよ」

「オイッ! シカトするなよ! 訂正しろ!」
 
 ああ、鼻で笑いやがって……あの巣籠もりアグレッシブヤロー。普段と動きが噛み合わないんだよバーロー。

 なんとかギャフンと言わせたいところだが、あの様子じゃ白馬先生には期待できない。
 ……仕方ない。奥の手をここで出すか。