正真正銘の落ちこぼれと証明されてしまったのだ。先は暗い。真っ暗だ。だから春は巣籠もりをした。だって行く高校もないし。
この先の見えない人生をどうしようかと悲観すらしていなかったおバカのもとに、ひょんなことから学院への招待状が届いた。
そう、悪魔の切符だ。
全力で逃亡した。だが、逃げられるはずもなかった。
そして迷い込んだ末に図書室で出会ったのが、「図書室の番人」こと桐嶋高雅だった。
これがまた癖のある人だった。
図書室は占領するし、口は悪いし、機嫌を悪くするとあらゆる手を尽くして殺しにかかってくる。
こんな人がまた何の冗談なのか、落第お嬢様の「特別講師」になってくれるのだから一大事だ。命がいくつあっても足りないだろ。
褒めるところがあるなら、顔がいいくらいだ。あと紅茶を淹れるのが上手い。あと頭がいい。何か難しい本ばかり読んでる。動物に好かれる……ありまくりじゃねえかッ!
さてと、ダイジェストはここまでにして、いつもの時間に図書室の扉をスライドする。
すると、そこには新しい顔があった。
ここの制服ではなく代わりに水色のシャツ、細いチェック柄の茶色のパンツスタイル、金髪のカッコいい男の人が図書室を見回していた。
わぁお、いっけめん。モデルかな?
知らない顔に思わず見惚れていると、ふと視線を感じて振り返ったイケメンに見られた。黙って見てたからかえらくびっくりされた。
あまりの綺麗な顔に不意打ちを食らっているとそのイケメンが会話のしやすい距離にまで近づき、素性の知れない彼は微笑んだ。
「どうした? ここには何か用か?」
至近距離から覗く蜂蜜色の瞳と、甘い表情に、真っ向から撃ち抜かれる。緊張やらときめきやらで感情がクラッシュする。
ここに来てから話し相手といえば冷酷無慈悲な彼くらいしかいないから、免疫がない。
とりあえずこの人が何者かを解き明かさなければと、落第お嬢様の邪推論が幕を開ける。
まず、彼の片手に握られた幾束の紙の書類。
握られているというより、腕と脇腹の間に挟まれている形だ。傍から見てかなり重そうだけど、抱えている本人はそんなことを微塵も感じさせる素振りもなく平然とした顔だ。イケメンの涼しい顔は目の保養になる。
おっと、そうじゃないだろ桃香。そして次に目に入ったのが、まくられたシャツの袖に肘関節まで露わになった肌から覗いた、無数のかすり傷、切り傷に痣、その他諸々の痛々しい絆創膏、包帯……。一体何があったんだ。イケメン。
色々と面食らうものがある。
しかしそれを上回る面食らうものが、視界の端を過ぎる。
首から下げられたこの学院の教員を証明するネームプレート。この人先生なのかとひとまずわかった。それには特段驚くことはない。モデルではなかったんだけども。
そのプレートをまじまじと見て、担当科目は英語ということと、その後に書かれている肩書きに大きく目を見張る。