偏差値、支持率、知名度、名声、どれを取ってもNo.1に君臨する都内随一の私立高校。

 私の祖父が創設者であり、今も理事長という肩書きで都内No.1の高校を運営している。




 彼の名は夏目清蔵。
 そして、彼が創立したその高校の名は『ティアラノワール高等学院』。


 都内にある進学校に、どうして日本の私立らしからぬ名前がつけられてしまったかは前回も言った通りだが、私の祖父は極度の欧米文化好きだ。
 特に古風な日本文化とは異なるユーロピアの繊細で気品溢れる趣に惹かれたらしく、そのマニアの血が騒いだ行く末がこれだ。自分が創立した学校の校名もまたそれっぽく命名したらしい。「それもまた、西洋の神の恩恵なり」と、名前の由来について彼はこう語る。ちょっと何言ってるかわからない。

 現に日本の高校の校舎とはいえ、一見すれば異国の神聖な聖堂やら世界遺産建造物に見劣りはしないほど壮麗な外観で、無駄に金をかけた見栄えをしている。おまけにその敷地内には、礼拝堂に見立てた建造物まである。
 ……カトリックの修道院か、ここは。みんな毎朝あそこでアーメンとか祈ってるんだろうか。



 さて話を戻して、実はそんな理事長の孫娘だったりするのが私だ。
 世間一般では「理事長の孫ならばきっと人並外れた天性の才に恵まれている」なんて万能な方程式が実しやかに囁かれるけれど、私には無効だ。

 確かに都内一流の進学校の理事長の孫娘ではある。しかし、一般の国公立にあっさりと落ちてしまった、俗にいう「お馬鹿さん」なのである。


 むしろ「都内No.1の進学校の理事長の孫娘」という鉄壁の看板があるのに落ちこぼれてしまうのだから潔い。