光と共に、何かが飛び出してくる。
本棚の物陰から見ていることしかできなかった私は、きっと鳩が豆鉄砲を食らったような間抜けな顔をしていたことだろう。
私のもとを離れていく白猫は、ご主人のもとにトタトタと四足の足で歩み寄っていく。その人の足元に白猫がすり寄り、彼が気配に気づく。
白猫がたどってきた方向を見れば、唖然とした顔の私がそこに座り込んでいる。身体にうまく力が入らない。夜空のように儚く揺らぐ彼の双眸と目が合う。
今見た光景が信じられなくて、何度も目を擦ったりして自分の目を疑った。きっと何かの間違いだって……。
この頭はついにバグってしまったのだろうか。
「うにゃあん?」
面識のない猫が、彼の肩にちょこんと乗っている。
白猫とは対極の黒い毛並みが、彼に似て人を惹きつけない空気を纏っている。そんな黒猫がこちらを見て、退屈そうに鳴いた。
そんなことは些細なことだ。
だけど、今見たものは……私が見てしまったのは、黒猫が……。
「ねえ」
頭を整理する最中で、邪魔が入る。
その人の声が思考を遮る。
「今の……見たの?」
率直に彼が尋ねてくる。顔を上げると、彼が猫達を引き連れて、こちらまで歩み寄っていた。
だけど、私は素直に頷くべきか悩んだ。そうすることがなかなかできない。
本当に自分の頭がどうかしてしまったんじゃないかと疑うほどだった。けど彼の顔つきは、疑う余地もなく現実であることを物語っている。
嘘だよ、そんな、信じられない。
だって、本から猫が飛び出して来るなんて……。