すると突然、背後の壁がスライドして動いた。
いや、壁じゃなくて、私がこのド変態二人組に押さえつけられていたのはどうやら図書室の扉だったらしく、彼らの手を離れて私の身体は開いた扉の向こう側に倒れていく。
だけど、私の身体が床に叩きつけられることはなく、背後の人物に支えられていた。
「ねぇ、君たち。そこで何してるの?」
その声が、また聞きたかった。
私の耳を溶かすほどに透き通るその人の声。
なんだ。たまには助けてくれるんですね。
なんて相変わらず顔色も変わらない高雅さんを見ることができて、ホッとしている自分がいる。
「……ねぇ、君たち。誰の許可があって、僕のテリトリーの前でレイプしてるの?」
とかちょっと油断してたら、目の前で襲われていた娘がいるのに全く励みにならない言葉を何の躊躇もなくこの人は吐いて、その二人組に事態を問い質している。
一応彼から守られてる(?)立場なのに、二人組を睨む高雅さんの視線があまりに鋭くて、こっちまでビクビクしてしまう。
「き、きききき桐嶋高雅がなんでっ……」
「こっ、ここってまさかと、図書室なの……?」
「そうだけど、何?」
この場でどんな人物を相手にしているのか彼らはすんなりと理解したようで、仲良く尻尾を巻いて逃げていった。その光景を目の当たりにしてしまって、ある意味震えが止まらなかった。
ええ……そこまで恐れられてたの……? 桐嶋高雅って何者……?
「……君も、いつまで僕の腕に支えられているつもり。さっさとそれを直して帰りなよ」
その言葉にふと我に返り、彼にはだけた部分を指摘されていることに気づく。
こ、こんなはずじゃなかったのにと、慌てて彼に隠れて服を直す。
「お、お見苦しいものをお見せしました……」
ああ、気まずい。なんか余計に気まずい。
言いたいことも吹っ飛んでしまった。どうしよう。なんて切り出したらいいかわからない。
「あ、あの、高雅さん……」
「その名前で呼ばないでって、口止めしたよね」
せっかく会えたのに、またその辛辣な声に制されてしまう。まだ、行かないでほしい。
「ここに来たのは、私の気持ちを伝えたくて……」
すごく緊張してる。声が微かに震えているかもしれない。
それでも彼の反応は冷静で、どこまでも冷たく突き放してくる。
「君の気持ちなんて知らない。僕の時間を邪魔する奴らはみんな追い返した」
「何度追い出されても、またここに来ます。私はあなたがいたから、また学校に行こうって思えるようになったんですよ」
遠くへ行ってしまいそうな背中に必死にしがみつきたくて、無意識にその人の服の裾を引っ張った。
ほんの一瞬、動きを止めてくれた。どうか氷のようなその人の心を溶かしてほしい。
「どうして、そこまで僕にこだわるんだ。あの老いぼれから、何か聞いたりしたの?」
「いいえ、おじいちゃんは関係ありません。だってこれは、私の問題だし……自分の力で何とかしたいと思ったから」
「…………」
無言が返ってくる。
もう言葉にすらならないほどに彼から呆れられてしまったかもしれない。プライドなんて捨てるつもりで来たけど、やっぱりへこむ。
こんなに捨て身の決意を固めてやって来たことなんてないから、彼にまた相手にされなかったら泣いてしまいそうだ。
受験で落ちたときも泣いたことなんてなかったのに。
けれど、高雅さんの様子が少しおかしい。
「はあ、ほんと君ってバカだね」
後ろ姿で見えないけど、低い声であの高雅さんが、笑っている……?