そんな秘めた思いを伝える人もこの場にはいない。だから何も言わず踵を返そうとした。

「ちょ、おい待てよ!」

 私に無視されたのが気に食わなかったのか、茶髪の人が逃すまいと私の腕を掴んだ。
 そのまま腕を引っ張られ、勢いのままに壁際に追い詰められた。無理やり背中を押し付けられて、痛みに顔を顰める。

「無視とは生意気だな。痛い目見てえのか」

 こんな人達より、あの人の方がずっと怖いんだから、脅しなんかに屈さず押さえつける男を睨み返してやった。
 でもそいつは不敵な笑みを浮かべて、もう一人に指図した。

「そうだな、こいつの服脱がせてやれ」

「はっ!? ちょっと……!」

 思いもしなかった言葉に、背筋が凍りつく。
 ふ、服なんて知らない男子に脱がされて、たまったもんじゃない。けど、逃げようにも茶髪の方ががっちりと手首を掴んでいて、とても逃げられるような状態じゃない。
 抵抗しても、男女の差には敵わない。
 そうしている間にも、眼鏡の男子が私の着ているシャツに手を伸ばそうとしている。

「やだっ、ちょっとやめて……!」

「おびえちゃって、可愛いなあ。お兄さん達が優しく手ほどきしてやるよ」

「や、やだぁ……!」

 
 助けを求めようにも、もとよりこの辺りは人通りが少ない。人が通る気配もなければ、誰かが助けに来てくれることも期待できなかった。
 ネクタイを外され、シャツも脱がされていく。悔しかった。怖かった。誰か助けてほしかった。

 そんな時に浮かぶのはやっぱりあの人の顔で……本ばかり読んでるあの人の顔が浮かんできて、彼の名前を必死に呼んだ。

 こんな時くらい助けてくださいよ。高雅さん……。