私立ティアラノワール高等学院。
一応は日本の都内にある、私立高校だ。
学校の名前や校舎の様式は、西洋文化が好きなおじいちゃんの影響を受けているけど、「ティアラノワール」の名前の由来は本人曰く生涯の謎らしい。
別に欧米文化が多様に含まれているだけなら、私だって入学を拒むことはしない。むしろ孫の特権として、コネで祖父のこの学校に入ることも簡単なことだ。それはつまり、落ちこぼれの落第生にならずに済むってこと。
けど、私があえて最初からそうしない……いや、したくない理由がこの学校にはある。
会話の冒頭に釘を打ってまで、二度とない負け組からの脱却を拒んでまで、私が落第生を選ぶ理由……。
実は、これも至極簡単なことである。
何故なら、私の祖父が建てたこの学校が――
都内でも、偏差値トップクラスの超エリート進学校だから。
例えば、一匹のか弱い小羊が、何万もの狼の群れの中に放り込まれたら、果たしてその小羊は生きて帰れるだろうか。
例えば、五流高校の受験に失敗した負け犬が、一流の頭脳を持ったエリート達と一緒に一流の勉強をして、果たしてその残念な思考回路は無事でいられるだろうか。
もしも私に回答権が回ってきたなら、答えはノーだ。
たとえ私のことを思ってくれたことでも、私は受け入れることはできない。私はまだ死にたくはない。
しかし、見かねたおじいちゃんが、これまた私に助言する。
「入学といっても、まだ仮入学だ。それにお前には特別な講師を用意しておる。安心せい」
「特別な講師……」
響きはなんとなくいい気がするんだけど、要するにまた勉強しなきゃいけないってことでしょ? そんなの、たまったもんじゃない。私はこの世で勉強が一番嫌いなんだ。嫌いなやつとどうやって仲良くなれと言うんだ。馬鹿にも分かりやすく説明をプリーズ。
だけどその時、閉ざされていたはずの扉が勢いよく開いて、この学校の制服を着た図体のやけに大きな男子生徒が計三名、妙に暑苦しい熱気を纏って入ってきた。だから誰だよ!
おじいちゃんはその三人の暑苦しさに嫌な顔ひとつせず、相変わらずの笑顔で彼らを迎えている。
「おお、やっと来たか。それじゃあよろしく頼むよ」
暑苦しいその男子生徒の一人がそれに応える。
「ハッ! 我々ボランティア委員会、まもなく入学式が始まるということで、藤澤桃香殿を回収しに参りました」
――はッ!? 私を回収!? って、私はゴミか!!
すかさず突っ込んでみたものの、私はその暑苦しい奴ら……もといボランティア委員会の方々に、またもや拉致されてしまったのである。抵抗はしてみるものの、無駄にある筋肉はピクリともしない。ボランティアの人がなんでこんなにマッチョなのよー!?
「桃香、図書室に行けば自ずと会える。まあ、がんばりなさい」
私がマッチョ連中に連れ去られる間際、おじいちゃんがにこやかな顔で何かを言ってたけど、そんなの知るか。扉が閉まる最後まで、おじいちゃんの憎たらしい顔を睨みつけた。