図書室にも行きにくくなり、あれから三日は自室に引き籠ろうとしたけれど、母に布団を引き剥がされて無理やり家を追い出されてしまった。
 私も粘ればあのまま家に籠ることはできただろうけど、手を焼いた母があの人に連絡してまたボランティア委員会やら面倒な輩を寄越されるのは避けたかったからだ。

 登校しても図書室にはとても顔を出せないので、仕方なく自分のクラスに行ってみることにした。
 入学式以来、不登校扱いだ。正直教室にも顔を出しにくい。でも図書室よりは何十倍もマシだ。



「ねえ、あの娘」「藤澤さんだったかしら」「噂だと理事長のお孫さんらしいわよ」「でもあの図書室に顔を出しているそうよ。関わらない方がいいわ」

 窓際の自分の席に着いたけど、ほぼ初対面のクラスメイト達から後ろ指を刺されるのはわかっていた。どうやら私の噂が色々回っているようだ。やっぱり教室にもいづらい。


「あら、藤澤さん」

 声をかけてきたのは、担任の先生だ。
 えっと……栗谷先生だっけ。栗谷里美先生。
 うちのクラスの担任の先生で、めちゃくちゃ美人だ。女の私が言うのもなんだけど、これはモテるだろうなあ。もちろんその清廉な美貌で教師や生徒から絶大な支持を得ている。

「授業に出てくれないから心配してたのよ。でも、来てくれてよかったわ」

 心を潤す癒しボイスに、不登校の生徒を気にかける聖人ぶり。こんな進学校の先生だから頭もいい。頭も美貌もない私はこの世の不平等に打ちのめされる。
 そんな心の傷など知らない担任の先生は、私に少し話があると言って席を立つように促した。この教室の空気にも耐えられなかったので、私は素直に頷いた。


「ん……?」

「どうした、明海(あけみ)

 先生に連れられて教室から出たところで、一瞬すれ違った男子がこちらを振り返るが、お先真っ暗な私は視線に気づくこともない。