楽しみだったはずのお茶会も、この日の天気のように暗く沈んでしまう。雨の音は窓を叩いて激しさを増した。


「君が誰とどこで何をしていようが、僕には関係ないことだ。僕の時間まで犠牲にして、君にこれ以上付き合うつもりはない」

 冷たい言葉が鋭利な刃物になって、胸を抉る。
 これまでの時間も失われたような、突き放すその人の視線が辛かった。

「遅れたことなら謝ります。もう遅れたりしません。高雅さんに喜んでもらいたくて、お菓子焼いてきたんです」

 不穏な空気が漂い始める中で、それでも必死に場を盛り上げようとがんばった。いつも通りに振る舞えば、彼の機嫌も治らないかと淡い期待をしていた。


「気安く僕の名前を呼ばないで」

 低く唸るような声で制されて、微かな息さえ喉に詰まった。何も言えなくなる。

 固まる私を前に、彼は言葉を続けた。

「……君が遅れたから悪いわけじゃない。もともと僕はこういう人間なんだ。昔から誰かを傷つけることしかしてこなかった」

 高雅さんの昔のこと……もう少し時間をかけて、仲良くなればいつか話してくると期待していた。


「よくわかっただろう。消えなよ。僕の前から……」


 けど、それも叶わなくなってしまうだろう。
 力の抜けた手には、包装紙はなかった。滑り落ちたそれが、床の上でぐしゃりと潰れる。

 もうこれ以上、彼の目に惨めな自分を映すのが耐えられなくて、自分から彼に背中を向けた。
 早足に図書室を後にしようとすると、私の足元に白猫が近づいてきた。まるで引き止めようとしてくれるそのこに、私は膝を折って微笑んだ。

「ごめんね。今日はもう帰るんだ」

 言い聞かせるようにそのこの顔を撫でた。
 そのまま猫ちゃんを抱き上げて、自分のそばに抱き寄せた。そのこのぬくもりに耐えられず、私は泣いた。猫ちゃんは逃げずに抱きしめる私のそばに寄り添ってくれた。

 遠くから聞こえる雨の気配は、この声をかき消すほど激しく降り続けた。