入学式から気づけば毎日通っている図書室の扉が見える。猫ちゃんのおかげで無事にたどり着くことができた。
スライドの扉は、猫ちゃんが通るだけの隙間が少し開いている。先に猫ちゃんが、その隙間へと吸い込まれる。
その後を追いかけるように、私もおずおずと図書室に入った。
約束の時間をもう30分もオーバーしている。もしかして怒っているかなと、辺りを見渡しても姿が見えないことに不安の色が浮かぶ。
図書室の奥にいるのかと広い室内をしばらく彷徨うと、大きな本棚で隠れた窓際の席に足を組んで本を読む彼をようやく見つけた。窓にはポツポツと雨粒が叩き始めている。
遠くから見ていると雑誌の一枚のようなムードが漂っていて、迂闊に近づき難い。
おもむろに、読んでいた本を閉じる。
本棚の影に隠れていた私に気づいたようだ。
「遅かったね」
と、それだけ。その先を続けることはなく、私の返事を待っているようだ。こちらの顔を見ようともしない。
クロスが敷かれたテーブルの上には、二人分のティーセットが用意されていた。
これはやってしまった。彼の機嫌が悪くなるのも仕方ない。精一杯謝ろうと思った。
「高雅さん。遅れてすみません。あの、今日はカップケーキを焼いてきたんですよ」
大事に抱えてきた手作りのお菓子を、彼の前に差し出してみたけど反応はない。目の前にある食器を眺めて、低い声で呟いた。
「君が約束の時間に来ないから、せっかくの茶葉が無駄になってしまった」
怒っているけど、その眼差しは悲しんでいるようにも見える。