さあ、どうしたものか。
私は廊下に立ち尽くしていた。廊下の窓から眺める桜の景色はやけに感傷的で、春の青空にも南西の方角から翳りが差し始める。
どうして私がこんなことになっているか。
理由はシンプルだ。帰り道がわからない。つまりは迷子だ。
てっきり部屋を出たらボランティアの人達が送ってくれるのかと思ったら、廊下はもぬけの殻だ。何がボランティア委員会だよ。こういうときこそボランティアしなさいよ!
人っ子ひとり廊下を通っていない。この時間は授業中なのだろう。静けさ漂う廊下は、薄暗さも増して薄気味悪い。こんなところに置き去りにされてしまった奴の気持ちがわかるかしら。膝から崩れる思いよ。
しかしここでいつまでもじっとしているわけにいかないから、そろそろ動き出すとしますか。
アテなんかありませんよ。ここから一生出られないことも覚悟しなければならない。それでも私は魔王を倒すために、この冷たいダンジョンの地下を攻略しなければならない……! さあ、本の魔窟へと出発しようではないか!
「ミィア〜」
私のおふざけの熱量に反して、素っ頓狂な猫の鳴き声がする。
あれ? 高雅さんとこの白猫がいつの間にやら私の足元にちょこんと座っている。猫相手に、何とも恥ずかしい場面を見られてしまった。
くりっとした黄金色の瞳に、すっかり心を奪われてしまう。不思議なことが多いけど、この可愛さは確かにほんものだ。
もしかして、なかなか来ない私を探しに来てくれたのかな? 気が利く猫ちゃんだ。
「もしかして……猫ちゃんが道案内してくれるのかな?」
「ミィアオン」
猫ちゃんは頷くように可愛く一鳴きして、てくてくと私の前を歩き出してくれる。
持つべきものは筋骨隆々ボランティアじゃなくて、賢い猫ちゃんだな。同時に自分の情けなさに少し顔が赤くなる。