「桃香、待っていたよ」

 入学式以来の理事長室の扉を叩く。無理やり連れて来られたんだけどさ。
 中に入れば漏れなくここの責任者及び私の祖父である白髭を蓄えた人が待ち構えている。孫を拉致されてどうしてそんなに晴れやかな笑顔でいられるのか甚だ不思議だよ。

「さてと。桃香、調子はどうだ。その様子だと高雅とは上手くやっておるようだがな」

 この日のために焼いてきたカップケーキの包装紙を見て、おじいちゃんが意地の悪い笑みを浮かべる。頼んできたのはそっちのくせに、苦労して進展させた関係をからかわれているようで心外だ。

「その様子なら心配いらんだろうが、一応高雅とはどこまで進展しておる?」

 しつこく尋ねてくる。態々答えないといけないのか。これ。
 期待に胸を膨らませるおじいちゃんに向けて、仕方なく私は答えを用意してあげた。


「あえて言うなら、主様とパシリってところよ」

 ふっ、と私の表情が翳る。
 でもこれはあながち間違いじゃない。
 近頃はお菓子の件だけじゃ収まらず、嫌がらせのように私に雑用を投げてくる。紅茶の淹れ方から始まり、それに合うお茶菓子を持ってこいと言い放ち、挙句には白猫の相手からお世話まで全部私に放り投げてくる。
 暴君の極みだ。ここまで来ると、自分でも彼にこき使わされている自覚はある。

「すまんすまん、お前が高雅のやつに手なずけられておったか。これはわしの早とちりだった」

 豪快に笑うところじゃねえだろ。自分の孫娘がどこぞの男にいいように扱われてるんだからもうちょっと心配しろ。
 このままじゃまたおじいちゃんのろくでもない世間話に付き合わされてしまいそうなので、さっさと話を切って私は立ち上がろうとする。