部屋の真ん中にどっしり構えた椅子に腰掛ける白髭の爺さん。
 この学校の理事長――夏目清蔵――私の母方の祖父である。

「桃香よ。わしは可愛い孫に会えて嬉しいぞ。この学院の制服も、よおく似合っておる」

 
 うんうんと、二回ほど頷いてみせる。私の第一声などガン無視だ。孫が自分の学校の制服を着てくれたことに至極ご満悦の様子だった。
 まあ、彼女達に無理矢理着せられたこの学校の制服は、私もそこそこと可愛いと思っている。我ながら似合っているとも思う。けど今はそんなの関係ねぇ!

「ねぇ、おじいちゃん。こんな日にうちに吹奏楽部の人達まで寄越して、私にこんな格好させるって……」

 頭に冴え渡る嫌な予感を確かめようとすると、その前に落ち着いて話をしようと来客用のソファーに座らされた。

「私、おじいちゃんの学校に入る気はないから」
 
 あらかじめ、そう釘を刺した。できればこれ以上、余計なことにならないことを祈る。

 
「桃香、お前……志願した高校全てに落ちて、今や世間から見捨て奈落のドン底生活を送っているそうではないか」
 
 今、一番突かれたくないことを、一番突かれたくない人物に言われてしまった。
 遅かれ早かれバレてしまうことは避けられないけど、こんな強引な手段に出るとは思いもしなかった。

「私もおじいちゃんなら、可愛い孫娘のために一肌脱ぐことにしたんだよ。それに孫が落第生というのも、この学院の理事長という看板に傷がつく」

 本音が後半にポロッと漏れたが、おじいちゃんは気にした素振りもなく、急に真面目な顔になって宣言した。


「そこで特例として、藤澤桃香を我が学院に入学することをここに許可する」

 あああ。もう最悪だ。逃げとけばよかった。