「毎日ここに来てもやることがなくて……慣れないことをしてみたんですけど、やっぱり読書は向いてないんですかね」

「別に毎日ここへ来る必要はないと思うけど」

 代り映えしない図書室ライフに何か刺激がほしいと手を伸ばしてみたけど、いい睡眠剤になるだけだった。
 確かに彼が言う通り毎日ここに来る必要もないんだけど、私がここへ来る大事な用事を忘れているような……? 何かあった気がするんだけどなあ……。

「……あ、そうですよ。もともとここに来たのは、あなたに勉強を教えてもらうって約束だったんですよ」

「今思い出したの、それ」

 呆れたように言われたが、バカだから仕方ない。バカは記憶力が乏しいからバカなんだ。

「というわけで、教えてください」

「嫌だ」

 勉強を見てもらえるように頼み込んだが、桐嶋高雅はまともに取り合ってくれない。こんなに頼み込んでいるというのに、猫ちゃんも私の膝の上で応援してくれているというのに、表情ひとつ変えず本棚を漁る。

「そんな約束はしてない」

「ぐぬぬ……じゃあ、どうしたら取り合ってもらえますか?」

 淡い期待を胸にそう問いかけたのだけど、彼から返ってくる言葉は私の期待を打ち砕いて壮絶なものだった。

「お願いしたら言うことを聞いてもらえると思っていることが、君の甘えじゃない。別に僕は君の先輩でもないし、お世話をする気もないよ」

 予期せぬ辛辣な言葉をかけられる。確かに甘えてしまう部分があるかもしれないけど、じゃあこの中途半端なあなたの優しさはなんなんですか。ちょっと自惚れてしまうじゃないですか。


「お、お言葉ですが先輩こそ人のことを「君」とか「バカ」とか、私のことを名前で呼んでくれないじゃないですか」

「……それ、僕に何のメリットがあるの?」

 そんな素っ頓狂な質問を返される。
 あなたへのメリット……? そんなの決まっているじゃないですか。メリットと言われたら、特にそんなものはない。

「メリットは……私への好感度がもれなく上がります」

「君に付き合うほど僕もお人好しじゃないよ」

 少しふざけすぎてしまった。桐嶋高雅がさっさと踵を返していこうとする。なんとかここで踏みとどまらせないと、これまでの地道な努力も水の泡だ。