「ミィア~」

 私の顔を覗き込む白猫ちゃんが、どうやら起こしてくれたようだ。
 図書室の一角にある窓辺に近い長椅子に、意識がぼんやりするうちに横になっていたらしい。窓から直接差し込む春の陽光が眩しい。ここまでの記憶が、あまりないのだけれど……。


「あ……本を読んでたら、眠っちゃってたんだ」

 傍らには、開きっぱなしの児童書が落ちている。暇潰しにと手に取ってみたけど、思っていた以上に苦手な活字が多すぎて、いつしか記憶が飛んでしまったようだ。
 それに……眠っていた私の身体には、見覚えのない毛布がかけられている。

 そして、ちょうど視界の端に知っている人の姿を見つける。


「あれ……先輩?」

「赤子のように大口開けて寝ていたよ」

 本を探している様子の彼は、口を開くとそんな意地の悪いことばかり言う。
 その横顔は私のことなんかこれっぽちも見てくれはしないけど、私は寝起きの意識をはっきりさせながら彼に問いかける。

「あの、もしかしてこの毛布……」

「その猫が勝手にやったことだよ」

 本当なのかな? そう言ってはぐらかしているようにも見える。
 膝の上でおとなしくしている白猫とじゃれ合いながら、意識を手放す前の記憶を掘り起こそうとする。さっきまで誰かの夢を見ていたような気がするけど……もう思い出せなくなっていた。