しばらくは滞りなく作業に集中していたので、私は手持ち無沙汰になってしまう。
集中する先輩の横顔を見つめながら、カッコいいなあくらいしか思うことがない。要するに暇だ。ずっと彫刻品なんか見てたって飽きてくる。
「先輩って、図書委員なんですか?」
「……なんで?」
本の状態に目を通しながら、桐嶋高雅が訝しげに眉を顰めた。話が少し唐突だったからか、先輩の反応は鈍い。
「だって毎日ここで本を読んでるし、こんな委員っぽい仕事だってしているじゃないですか。だからそうなのかなーって」
台車の取っ手に腕を回して、前後にゆらゆらと体を揺らしながらそんな風に返した。
「……そんなところだよ。あの爺さんからは、確かに図書室の一端を担わされているから」
そんな曖昧な返事をして、本棚に本を戻す。
そのまま話の先を続けることはなく、先輩は黙々と作業を続けている。
桐嶋高雅がこの図書室に棲み続ける理由を少し探れないかと思ったんだけど、やっぱり口を割ってくれることはない。
彼と他愛ない話をすることは増えたけど、その素性はまだまだ明かされていない。うーん、謎は深まる。