「じゃあ、二人でやれば早く終わりますよね。先輩の貴重な読書の時間を確保するためにも、人手がほしいところだなあ……」

 なかなか痛いところを突いてやった。
 さあどうだ! 私という猫の手を借りたいだろう! 頭を下げてお願いしてもいいんですよ!

「邪魔だから、いらない」

 秒殺された。まったく可愛くない先輩だ。後輩が甘んじて手を差し伸べてやっていると言うのに。
 しかしここで引き下がるのは、なんだか負けた気がして気が済まない。
 
「邪魔はしません。私が桐嶋先輩の仕事をお手伝いをしてあげます」

「それが邪魔なんだけど。いらないから」

「邪魔じゃないです」

「邪魔だね」

「手伝います」

「いらない」

「いります」

「いらない」

「ヤダ、いる」

「……どこの駄々っ子気取りなんだい」
 
 私の納豆よりしつこい粘り気に観念したのか、大仰に息を吐いた。そして私の額にコツンと伝票の角を押し当てる。

「僕の足を引っ張るんじゃないよ」

 きっと彼なりの照れ隠しだろう。まったく素直じゃないなあ。
 誤魔化すように私から目線を外した彼が先に歩き出す。遅れを取らないように小走りであとを追いかけながら、彼から託された伝票を持ってその人の隣に並んだ。