本人に言ってみたところで機嫌が悪くなるのは想像できるから、黙っておくけど。
それよりも、少し待っても姿を見せない図書室の番人にソワソワしてしまう。
すぐ戻ってくると思ったんだけどな。どうしたんだろう? あ、トイレかな? あの人よく紅茶飲んでるし……私は何を想像してるんだ。
桐嶋高雅って名前も人物も、人間味が感じられないというか、だからその……絵が想像しにくいというか……。
そんな下世話なことを考えていたら、バチが当たったのかもしれない。
カラカラ……。
物音がした。この世のものとは思えない不気味な軋んだ音が……。びくりと肩が震え上がった。
な、何の音なの……? 先輩? それとも……?
古い館の開かずの扉をこじ開けるような不気味な音が、絶えず遠くから聞こえてくる。この世のものとは思えない。叫び声のような耳障りな音に、咄嗟にカウンターの裏に身を隠した。
ど、どどどどどうしよう。私ああいうのは無理な人種なんだけど……。先輩まだなの……トイレ長いよお……。
「ミャアオ〜ン」
「……ふぇ?」
カウンターの椅子の脚にしがみつく勢いで身を隠していたら、上から鳴き声がした。見るとテーブルの上から白猫ちゃんが、呆れたように私をそこから見下ろしている。
あ、なんだ。白猫ちゃんが遊んでたのか。
こんなところにぷらっと霊体的なものが棲み着いてるわけないよね。びっくりしたなあもう。
「ミャア〜」
その白猫は果敢にも一匹で部屋の奥へと小走りで行ってしまう。ちょっと待ってよ! まだ一匹じゃ危ないし、それより一人にしないでええええっ!!
情けなくも白猫に懇願するように、私はその後ろをひたすらついて行くしかなかった。だってまだ怖いんだもん。
しかし間もなく、私は白猫を見失ってしまうのだった。やばいいいい。誰か嘘だと言ってええええっ! まだ足の震えが止まらないんだよおおお!
白猫を見失った途端、またあのぎこちない音が私の耳を劈く。しかも、それはゆっくりとこちらへと近づいているようだ。
音が大きくなっていくにつれ、私の魂は抜けていった。もうダメだ。そう思って本棚脇の近くの椅子に隠れる。
「……誰、そこでケツ向けて丸まっている君」
「………………ふぇ?」
聞き慣れた人の声にそろりと目線を上げる。私の格好を見てドン引きした先輩の姿がそこにあった。
「うわぁーん! ぜんばいいぃぃ!!」
「げ、君か。なんか知らないけど、近づかないでくれる。気持ち悪い」
私は先輩に泣きついた。しかし、それを拒否されてしまった。彼がたまたま手に持っていたそこそこ分厚い本でベシッと頭を叩かれた。うぅ、酷いし痛い……。