図書室の中をぐるっと一周しながら、私は目を凝らしてある本棚の前で立ち止まった。
 自慢じゃないが本を読まない分、視力は結構いい方だ。だから高い位置にある本をじっと凝視して、それを確信すると、自分より背の高い本棚に手を伸ばそうと近くの脚立を持ってくる。これならギリギリ届きそうだ。あんまり昇ったことがないから不安だったけど、最後まで昇りきってなんとか本に手が届いた。
 本を手に取って嬉しくなっていると、油断した足元からガシャンと脚が折れる音とともに脚立が崩れる。その異変に頭が追いついた頃には、身体が空中に投げ出されていた。

 あ、落ちる。ともうすぐ身体が床に叩きつけられるところで、グッと覚悟を決めて目を閉じる。これはただでは助からないと思って、本を抱きしめて受け身の体制をとった。
 高い場所から勢いよく落ちているはずだったのに、温かいものに身体を受け止められた。受け止められたときの衝撃で思わず「痛っ」と漏れる。



「何やってるの」

 頭の上から桐嶋高雅の声がしたような気がする。猫のように丸まりながら恐る恐る目を開くと、やっぱり私の顔を覗き込む先輩の顔がそこにある。


「…………ふぇ?」

「またそれかい。君は何度僕に迷惑をかけたら気が済むの」

 あれれ〜。そんなに迷惑をかけた覚えがないんだけどなあ〜。
 まあだけど、この時ばかりは彼に多大な迷惑をかけていたかもしれない。床には脚が折れた脚立が倒れている。ということは……私の身体は何に支えられているんだ?

「君、ちゃんと聞いてるの? いつまで甘えてるつもりだい。落とすよ」

 間近に見る桐嶋高雅の顔が綺麗すぎて、ガン見したまま止まってしまった。じゃなくて、このままだと振り落とされる。
 どうやら私は桐嶋高雅に抱きとめられたらしい。そう、つまりは「お姫様抱っこ」。少女漫画によくある鼻血ものだ。しかし桐嶋高雅相手になると流血ものだ。

「おお落とすのはやめてください! ててていうかここここの状況って……」

 自分の状況を改めて自覚すると、パニックで呂律が上手く回らない。あんたはなんでそんなに涼しい顔ができるんだ!?

「助けてあげたのに、何その態度。ムカつくね」

「いやいやいやいやだってこれ……とととにかく早く下ろしてくださいよ!」

「君、生意気だよ。そうだね、そんなに嫌がってくれるのなら、むしろ下ろさないであげよう」

「〜〜〜〜ッ!!」


 あ、悪魔だ! いや、魔王だ! 魔王級の不敵な笑みでこっちを見下ろしている。本気で私を下ろさないまま戻ろうとしてるし! しかも意地の悪い顔もちょっとカッコいいからムカつく!!