「今日は何の本を読んでいるんですか?」
「……図書室では私語を慎みなよ」
「ちょっとくらいいいじゃないですか。ここには私達しかいないんだし」
昨日とは違う本を読んでいるようだ。相変わらず背表紙のタイトルが読めない。
「君って屁理屈だけは立派だね。詐欺師か悪徳セールスにでもなればその生ごみみたいな頭も使い道がありそうだ」
「めちゃくちゃ悪口!!」
ようやく話をする気になったと思ったら、ただ毒を吐かれただけだった。誰が詐欺師じゃ!
その後はまったく相手にされなくなってしまったので、仕方なく猫ちゃんの帰りをおとなしく待つことにした。だって彼の手元にギラギラ光るものが見えて迂闊に話しかけられないんだもの。
ぼーっと待つことにしたけど暇だ。暇すぎる。このまま座っていても布団に籠もっているのと変わらないんじゃないか。
重い腰を上げて、暇潰しになることを探しに広い図書室をぶらぶら歩くことにした。これだけ広いならちょっと散歩するだけでも暇潰しになりそうだ。
2階まである図書室なんて今までの人生で初めて見た。やっぱり小中とは比べ物にならない。2階の壁面にまでずらりと本が並び、眩暈を起こしそうになる。
天気がいい日には、吹き抜けの窓から陽光が刺したり、ステンドグラスの淡い光がキラキラと反射する。高い天井を見上げながら、その迫力に圧倒されてしまった。
こんな世界もあるんだと、世の中をあまり知ろうともしなかった私には、とてもスケールの壮大な景色に見えた。こんなに居心地がいいなら、桐嶋高雅がここに籠りたくなる気持ちが少しはわかるかもしれない。