「あ、あのぅ……校門ってどちらですか?」

「…………は?」

 そんな私を見て、桐嶋高雅はとんだバカを見るような目をこちらへと向けてくる。
 
「……まさか、帰り方が分からないとか、馬鹿なこと言わないだろうね?」

「いやぁ、だって私、おバカデスから〜」

「…………」

 やけに明るい声で言ってみたら、とんでもなく引かれた。だろうなあ〜。

「なら君、帰れないくせにここにはどうやって来たんだい」
 
 桐嶋高雅はそう言って、訝しげにこちらを睨んでくる。気持ちいいぐらいバッサリとした性格のようらしい。その視線は矢へと姿を変化して、私の脆いハートにグッサグサと容赦なく直撃してくる。
 

「それは今朝起きたら、このこがいたんですよ」

 やけになって口にしたのは、拾い上げた白猫ちゃんのことだ。

「どうして家うちにいたのかは知りませんが、おかげでここまでの道を案内してもらいました」
 
 さすが先輩の飼い猫ですね、なんてあからさまな皮肉を言って桐嶋高雅に微笑みを返す。
 敵に回しちゃいけない人を敵に回した感が否めないけど、こっちだってハートブレイク中なんだ。もうヤケクソよ。

 桐嶋高雅はしばらく黙り込んでいたけど、はあ、とひとつ溜息を吐いてから胸の前で組んでいた腕をほどいた。


「…………いいよ、送ってあげるから」

 そう言って、私の隣をすれ違う。どうやら本当に付き添ってくれるらしい。呆然と立っている私の代わりにドアを開けてくれて、先に図書室を出る。


「勘違いしないでよ。これ以上部外者を、僕のテリトリーにとどめておきたくないだけだから」


 冷たい人だけれど、その背中が妙に頼もしくて、私は後から彼の背中を追いかけて行った。