そう、ここには桐嶋高雅と仲良くなるために来たんだ。
まずはスキンシップが大事だと、気持ちを引き締めて未だにこっちを見向きもしない桐嶋高雅に声を張り上げる。
「あのー、桐嶋先輩ー!」
すると見向きもしなかった彼が、急にこちらを向く。
「うるさい。図書室では静かにって、教えられなかったの?」
「え、あ、すいません……」
あっさり出鼻を挫かれてしまった……。
彼の言うことはごもっともなので、私は咄嗟に何も言えなくなる。
いや、まだチャンスはある。大丈夫大丈夫。彼の機嫌を窺いながら、もう少し会話を広げようと試みる。
「こ、この紅茶、とても美味しいですよね。どこのメーカーのですか?」
「……早く飲みなよ、冷める」
「あ、はい……」
「…………」
――会話終了。
「えぇと……そういえばこの猫、先輩が飼ってるんですか?」
何かないかと室内を見回して膝の上にいる白猫が目に入る。
「……そうだね」
「そうなんですかぁ。すごく綺麗な毛並みですよね。お手入れとかしているんですか?」
「別に」
「そ、そういえばこのこ、名前はなんて言うんですか?」
「知らない」
「えぇ……」
「…………」
――会話終了。
……この野郎、私の話に全然乗ってくれやしない。すました顔で読書なんかしやがって。
「先輩は何読んでるんですか?」
「『カーメル・フォスト考案の古細菌の生育及び生物学的用法の可能性』」
あー……ダメだ。何言っているのか全然分からん。
「その……先輩は読書好きなんですね」
「ここには本しかないからね」
「それならここじゃなくて、教室で授業を受けるとか――」
私が言い終わる前にパタンと本を閉じた彼。こちらを凝視する彼の視線がこの世のものとは思えない。
とうとう我慢の限界が近いのか、こちらまでわざわざ出向いて圧をかけに来る。
「君、さっきから何なの。邪魔なんだけど。それ飲んだのなら早く出てってよ」
怒らせてしまった。しつこくちょっかいをかけすぎたのかもしれない。
ただ、どんな人か知りたいだけなのになあ……。
「……すみません。紅茶、ご馳走様でした」
か細い声で呟いて、席を立つしかなくて、そのまま出口へと向かう。そんな私を見送るかのように、白猫が後ろをついて来てくれる。
……あ、だけど、言い忘れてたことがある。