私の告白に、桐嶋高雅は目を見張る。よし、言った! なんかめちゃくちゃ恥ずかしいけどよく言った桃香!
「何の冗談か知らないけど、勉強したいのならさっさと教室に戻るんだね。僕には関係ないよ」
私が一世一代の勝負に出たというのに、告られた相手はそう言っている間にも踵を返そうとしているし……そんな彼を、彼の黒のベストを掴んで制止する。案の定、不機嫌な声が降ってくる。
「……何、放してよ」
「嫌です。私の特別講師になってくれるんですよね?」
「何それ? 君の講師になる気なんてさらさらないけど」
「おじいちゃんから聞きました。私の特別講師になってくれるって。だから、教えてください」
「嫌だよ。君、さっきから何を言っているんだい?」
どうやらこの人は、おじいちゃんからまだ何も聞かされていないらしい。さっきから会話が噛み合わないわけだ。説明不足なんて、まったくあの人らしい。おかげで私にいつも手間がかかるじゃないか。
「へぇ……君、あの老いぼれの孫なんだ。それは不憫だね。だけど君の勉強を僕が見てあげる義理はないよ。僕には僕の都合があるからね。わかったのなら、さっさと出てって」
有無を言わさぬ目で、桐嶋高雅が私を追い返そうとする。何もしていないのにそんな目をされるのは普通に恐い。
だけど私も、ここまで来て譲るつもりはない。朝からこんなところまで来てしまったんだから。掴んだ手に力を込める。
「い、嫌です。放っておけないんです」
「何が。僕のことなら、構わないで」
「無理ですよ。昨日色々考えて、布団に籠もっているだけなんて慣れたら飽きちゃいますよ」
「布団……?」
昨日帰ってから色々考えたけど、あんなに広い部屋にひとりぼっちなんて勿体無いよ。どんな複雑な事情があったって、おじいちゃんが私に頼んだなら話し相手くらいになることはできると思った。