朝から目まぐるしいことが続いたけど、ようやく我が家に帰って来ることができた。私は自室に籠るやいなや、自分のにおいが染みついたベットにダイビングした。布団の柔らかさが、今日一日の疲れを癒してくれる。ベット最高ー。
吹奏楽部のメチャクチャな楽器演奏から起こされて始まり、その後は拉致されて学校に強制連行。理事長室にまで連れて行かれて、おじいちゃんと再会後、入学式に出場させられたかと思えば、ボランティア委員会の奴らにあっちこっち振り回されてもうへとへとだ。
その後も白猫を追いかけたりといろんなことがあって、そうして図書室で見つけたんだ。あの不思議な人を――……。
桐嶋高雅――私の特別講師になる人らしいけど、気難しそうだなあ。そりゃあ、顔はカッコいいし、どちらかといえばタイプだけど、ちょっと怖そうな人だったし……。
図書室は僕以外立ち入り禁止とか、誰も寄せ付けないオーラとか、あんな隙のない完璧な人にどうやってお近づきになればいいんだ。バカにはハードルが高すぎる。
そりゃああんなイケメンに勉強まで教えてもらえたら、私の暗い人生どんなに薔薇色か。だけど相手には物凄く迷惑な話だろうな……とか考えるとわけがわからなくなる。
バカが頭を使うもんじゃないな。明日も学校に行かなければいけないのかな。ああもうどうしたらいいんだろう。
……そういえば、おじいちゃんが何か言ってたことを思い出す。
――あいつは、特別なんだよ。特別であるが故に、昔から何もかもを背負わされて来た。
あの人が図書室に籠るようになった理由……詳しくはわからないけど、あの人にも何か抱えるものがあるんだな。ほんの少しだけど、その気持ちがわかるような気がした。
部屋に籠もっている間、自分のやるせなさにどうしようもなく落ち込んでしまう気持ちは、たぶん一緒だろうから……。
今もあの図書室で、あの人は一人なのだろうか。あの広い部屋で、いつも何を考えているんだろう――……。
頭を使いすぎてうとうとしているところに、リビングから母の呼び出しがあった。
今となれば、あの時寝たフリでもしておけばよかったと、スーパーへの近道を通りながら母親への不満を呟く。なんと、リビングに下りた矢先に我が家で通用のエコ袋を突き出され、お使いに繰り出されてしまった。
渡されたリストを睨みながら路地を歩いていると、一匹の猫が通り過ぎていった。
それを見て、私は「あっ」と小さくこぼした。
「あの白猫、一体どこに行っちゃったんだろう?」
今日の一日でいろいろなことがありすぎて、すっかり忘れていた。おかげでおじいちゃんにも聞きそびれてしまったじゃないか。
一息吐いた後、小さく笑った。
まぁいいか、また明日聞けばいいんだし。