「……あいつは、特別なんだよ。特別であるが故に、昔から何もかもを背負わされて来た。図書室は奴の、唯一傷を癒してやれる場所なんだよ」

 バカには事情はよくわからないけれど、ああ見えて結構繊細な人なんだろうか。何か傷ついた過去があるのかもしれない。いつもふざけているおじいちゃんがこんなに真剣になるなんて、よっぽどのことだろう。


「桃香、もう一度よく考えてほしい。これはお前のためであると同時に、あいつのためでもある。多少とっつきにくいところがあるかもしれんが、それでも高雅とは仲良くしてやってほしい。……私からのお願いだ」
 

 いつになく孫娘に真剣な表情で、おじいちゃんはそんな()()()をしてきた。

 私はバカだから、彼の抱えてきた痛みなんて全然想像できないけど……。



「今日はここまでにしようか。明日に備えてゆっくりしなさい」
 
 そう言って、外に待たせていたボランティア委員会の人達を呼んだ。部屋の温度が急上昇した。


「どうも! 我々ボランティア委員会、藤澤殿を迎えに参りましたぁッー!!」
 
 一人が部屋の中に入ってきて敬礼する。とにかく暑い。お前はどこぞの人間ヒーターだ。
 重い腰を上げて部屋を後にしようとした私を、おじいちゃんは私の肩に軽く手をかけて最後にこう言ってくれた。
 
「大丈夫だ。また何かあった時はここに来なさい」
 
 昔と何ひとつ変わらない優しい瞳で、私を励ましてくれるおじいちゃん。ちょっとだけ小さい頃の無邪気な気持ちを思い出す。
 
 あーあ、おじいちゃんは憎めないなあ。