「ねえ、ナオさん」

 「ん?」

 「わたし、ずっとやりたいことがなかったんです」

 「そうなんだ」

 「高校の頃、進路を考えたときから。世の中を、少し斜めに捉えていた部分があったんです。好きなことなんて、やっている瞬間は楽しいけど、どうせいつかは辞めなくてはならない瞬間がくるって考えてたんです。だから、周りには、新体操を続けた方がいいとか、新体操があるからいいよねとか言われたんですけど、結局辞めて、大学進学っていう無難な道を選んだんです。

それで、あれやこれやと考えてから起こした行動って、ろくな結果を持ってこないなって思って。それにはちゃんと根拠があるんです。新体操を始めたのも、部活として珍しいなって思ったくらいで、特になにを考えるでもなく入部を決めて始めました。やっている間はすごく楽しくて、ほとんど直感だったその決め方は間違ってなかったと思ってます。それでも、辞めるときには余計なことを考えて決断して、一度はすごい後悔した。

もう一つ、直感で選んだ道がいい結果を持っていてくれたことがあって。それがまさに、ナオさんとの再会なんです。大学の夏休みってすごい長くて、暇なんですよ。それである日、図書館に行こうと思って。その道中だったかな。この家の、ブロック塀の張り紙を見て、ナオさんに連絡してみた。暇だったし、リバーシくらいでなら、それなりに経験のある人にも勝てると思ったし。そうしたら、こんなにも楽しくて幸せな心地を味わえた」

 「直感、か。どうかな、僕に会ったのは、新体操を辞めちゃったからかもしれないよ。だから君は大学に進んで、夏休みに退屈を感じて図書館へ行き、僕に連絡をくれた」

 わたしは思わず噴き出した。「ナオさん、意外と楽観主義なんですね」

 「先日話したように、弟もそう思ってるみたいだったよ」

 「グラスに半分ある水を見て、ナオさんはどう思います?」

 ナオさんはふっと口角を上げた。「まだ半分ある、かな」

 「やっぱり」とわたしは笑った。