「では、モフモフさせてくれたら許します」

 いつぞやの再現だ。私は「なっ」と後ずさる黒の耳を手で触ったり、尻尾に頬ずりしたりして感触を堪能する。

「や、やめっ……だが、これは贖罪。我慢、だ……くうっ」

 目元を赤らめ、くすぐったさに耐える黒が可愛い。

「兄さんだけずるいっ、僕も撫でて!」

 後ろから甘えるように抱き着いてきたのは白くんだ。狛犬兄弟とじゃれ合っていると黒い気配を感じて、はっと顔を上げる。

「俺の気も知らないで、ずいぶんと楽しそうだな、雅」

 朔が居間の入り口に立っていた。昨夜は下ろしていた髪が、今はしっかり結い上げられている。その身を包む衣装は、華やかな桜が散りばめられた紺色の着物。黄金の帯で絞めた腰には刀を差している。

「そんな風に他の男と密着して、夫を妬かせるとは。俺の嫁はなかなかの策士だ」

 不機嫌なオーラを纏い、朔は不穏な笑みを口元に湛えていた。

 わざと私が妬かせようとしているだなんて、誤解もいいところだ。モフモフするために、結果的にこの体勢になってしまっただけなのに。

「私は、そんな風に相手の心を弄んだりしない」

 朔の冗談じみた口調はいつものことだけど、それを聞き流せないのは昨日つれなくされたことが尾を引いているからだ。