「ほうれん草のおひたしに、お煮しめ。じじいが食うようなもんばっかだろ! 俺はもっとハンバーガーとか、フライドポテトとかが食べたいんだよ!」

 トラちゃん、なんでそんなに人間の世界のジャンクフードに詳しいの?

「ほう、いい度胸だ」

 ゆらりとこちらに近づいてくる黒の背後には、ゴゴゴッと迫る殺気。対するトラちゃんも立ち上がり、ボンッと煙を立てて十八歳くらいの男の子の姿に化けた。これがトラちゃんのもうひとつの姿だ。

「やんのか! 俺の雷で消し炭にしてやる!」

 ――ああ、平和だな。

 今にもやり合おうとしているふたり。この賑やかさが桜月神社の日常だ。だが、あやかしや神様の喧嘩は人のそれと規模が違う。

「小鬼ごときが、俺に勝てるとでも?」

 黒もボンッと煙を立てて犬の姿になると、毛並みを逆立てながらトラちゃんを威嚇した。白くんと黒は、こうして犬の姿にもなれるのだ。

「もーっ、やめなよ、ふたりとも! これから、お昼ご飯なんだよ!」

 白くんが制止するも、臨戦態勢に入った狛犬と小鬼は聞く耳持たず。こうなってくると、せっかくの料理が冷めるどころか、喧嘩の最中に蹴り飛ばされて無残な有様になりそうだ。

「雅様あ~っ、ふたりが僕のこと無視するーっ」

 白くんが目に涙を浮かべ、私の首にしがみついてきた。その頭をよしよしと撫でながら、死闘をおっぱじめようとしている彼らに叫ぶ。