「どこから探そう」

 本屋やカフェ、ブティックが立ち並んでいる大通りは雨のせいか人通りが少ない。

 トラちゃんが入るとしたら、どのお店だろう。

 そう思案していると、眼鏡をかけたスーツ姿の男が前から歩いてくる。精悍な顔立ちと、黒髪のオールバックが隙のなさを感じさせた。

 そうしてなんとなく観察していると、彼の手にはめられた黒のグローブに目がいく。 

 冬でもないのに、変なの。

 不思議に思いながら、男とすれ違う、その瞬間――。

「ようやく見つけた」

 抑揚のない呟きが耳に届き、間髪入れずに手首を掴まれる。

「え――……」

 肌に触れる彼の手から冷気が身体に流れ込み、『苦シイ』『殺セ』『呪ッテヤル』『誰カ助ケテ』と老若男女の声が怒涛のように頭の中に響いた。

 なに、これ……!
「嫌っ」

 傘が宙を舞う。とっさにその手を振り払おうとしたら、左手の甲が眩い光を放った。朔のくれた祝福の印だ。バチンッと男の手を弾き、私はそのまま後ろに倒れ込む。

「痛っ……」

 地面に尻餅をつくと、チッと舌打ちが聞こえた。顔を上げれば、男の足元からお札のような白い紙が吹き上がる。それは数秒もしないうちに男を覆い隠し、そのまま空へと舞い上がっていく。気づいたときには男の姿も、どこかへと消えていた。

「なんだったの、今の……」

 あの人に触わられたところから、なにか嫌なものが流れ込んでくる感じがした。

 ぶるりと身体を震わせたとき、「雅ーっ」と前からトラちゃんが走ってくる。

「あっちにエビチリ肉まんよりうまそうな、『明太ポテト肉まん』とやらを見つけたぞ! やっぱりそっちにしよう……って、どうしたんだよ!?」

 座り込んでいる私を見て、トラちゃんは顔色を変えた。私のそばに膝をつき、肩を掴んでくる。

「なにがあったんだ!?」

「それが……」