「あの青が、今は恨めしい」

「なんだ、空が晴れてるのが気に入らないのか?」

「気持ちが沈んでるときに青空見ると、自分の悩みが余計に浮き彫りになるような気がしちゃって」

「なら、俺に任せろ!」

 にっと笑ったトラちゃんは、天に向かって手を伸ばす。すると、たちまち空が分厚い灰色の雲に覆われていき、ザーッと雨が降り出した。

「これで雅の悩みも紛れたか?」

「トラちゃん……うん、ありがとう」

 季節は六月。そろそろ梅雨がやってくる。うっとうしいくらいの雨がこれから続くというのに、貴重な晴れを私の都合で終わらせてごめんなさい。

 だけど、お陰様で不安や苛立ちの輪郭が空を覆う雲のように、トラちゃんの気遣いに隠れてあやふやになっていく。雨音は私の中でリフレインする、朔の冷たい言葉たちを掻き消してくれているようだった。

 私は傘を差して、トラちゃんと現世にやってきた。

 たった今潜った大鳥居は、神世と現世を繋ぐ門のような役割をしている。

 神社前に広がるのは生い茂る森。その参道を十五分ほど進み町に出て、コンビニに向かっていたときだった。

「あれ、トラちゃん?」

 隣にいたはずなのに、姿が見当たらない。目新しいものを発見すると、すぐに飛びついていってしまうので、こういうことは珍しくない。

 いつもなら、トラちゃんの行動に目を光らせてるんだけどな。

 朔との一件で、気もそぞろになっているようだ。