「策士なのは、朔のほうなんじゃない? 優しかったり、素っ気なかったり、天気みたいに態度が変わるから。私は、そのたびに……っ」

 ――怖くなる。どんどん好きになっていく私とは対照的に、朔の気持ちは冷めていってるんじゃないかって。人の世界では、男は付き合うと冷めるってよく聞くし。

「なんだ、昨日のことを怒っているのか? なら悪かった。言い方が配慮に欠けていた自覚はある」

「言い方の問題じゃない。私を追い返した理由を知りたいの」

 部屋を訪れたとき、朔は窓の外の景色を眺めていて、寝る素振りなんて少しも見せていなかった。それなのに、私が来たらもう寝るだなんて、明らかに追い返す口実だ。

「昨日だけじゃないからね。朔、最近私のこと避けてない?」

 一緒に寝る寝ない以前に、前みたいに隙あらば抱き寄せてくることもなくなった。みんながいるところでは、さっきのように『妬ける』だのとからかってくるが、ふたりきりになるとすぐに部屋に戻ろうとする。

 朔の様子がおかしくなったのは、確実にあやかしの世界――常世から帰ってきてともに生きることを誓ったあの日から。

「私、なにかした?」

 詰問するが、朔はだんまりだ。その表情は静かな痛みに耐えているかのようだった。

 なんで、朔がそんな顔をするの? わけがわからない。

 他のみんなが、私たちの様子を息をこらして見守っているのがわかる。空気を悪くして申し訳ないけれど、話し合いをやめるつもりはない。早くこのモヤモヤを晴らしてしまいたかった。

「俺の気持ちも察しろ」

 ようやく返ってきた答えがそれか、と落胆する。理由があるなら、話してほしかった。もちろん言えないことのひとつやふたつ、誰しも抱えているものだ。それは重々承知しているけれど、妻の私には打ち明けてくれてもいいのでは? でなきゃ、そんな風に思い悩んでいる様子の朔を支えてあげられない。