ここ、城山学園は普通の学びやではない。
特別な人間だけが入学できると銘打って一般人を篩に掛け、吸血鬼――つまりヴァンパイアとヴァンパイアハンターだけを集めた学園だ。
吸血鬼とハンターの間にはかなり殺伐とした時代もあったが、約百年ほど前から徐々に関係が変わって来た。
今では吸血鬼はむやみに人を襲わないとハンター協会と協定を結び、ハンター協会はその見返りとして吸血鬼側に定期的に血を提供する様になった。
その関係上ハンターも吸血鬼を狩ることが無くなり、協定違反した吸血鬼を捕らえる警察の様な役割になった。
そして数年前、ハンター協会と一部の吸血鬼達が共同で出資し作ったのがこの城山学園というわけだ。
周囲の生徒が言うように、和真はハンターを生業にしてきた家系に連なる家からこの学園に来ているのでハンター側の学生だ。
将来ハンターになりたいというわけではなかったが、特になりたいものもなかったので取り敢えずこの学園に通っている。
対する蓮香は吸血鬼と人間のハーフだ。
まだ数は少ないが、学園には他にも何人かいる。
吸血鬼と人間の親から生まれた子供は、吸血鬼の血の力とやらが強いらしく必ず吸血鬼になってしまう。
だから蓮香は吸血鬼側の学生と言うことになる。
殺伐とした関係では無くなったが、ハンターが吸血鬼を追う側であるのは変わりない。
変わりないのだが……何故か今は吸血鬼である蓮香が追う側で、ハンターである和真が追われる側になっている。
それはなぜなのかと言うと……。
「もう、笑ってよ。そして笑顔であたしに血を提供しなさい!」
そう、彼女は何故か和真の血を欲しがっているのだ。
吸血鬼としてハンター協会に登録してあれば、定期的に無償で血液が提供されているはずである。
学園の生徒は皆登録されているので、当然蓮香も対象内だ。
だから和真がわざわざ提供する必要は全くないのだが……。
「だから何で俺がお前に血吸われなきゃなんねぇんだよ!?」
「単純明快なことよ。あたしが、あなたの血を吸いたいからよ!」
「それがまた訳わかんねぇんだって!」
吸血鬼達は無闇に人を襲わない、と言っても例外はある。
相手の同意があれば、協定違反とは見なされないことになっているからだ。
それらのケースは恋人同士や夫婦が圧倒的に多い。何故なら、吸血鬼に吸われた相手は性的快楽を味わうからだ。
和真と蓮香は恋人同士でもなんでも無い、ただの同級生という関係だ。
こんな状態で血を吸いたいと言われたら、もしかして自分の事が好きなのか? などと思うかも知れない。
ーー本来ならば。
だが、蓮香が言ったように和真は男子高校生にしては可愛らしい顔をしていた。身長も平均よりは低い。
この顔の所為で小学生の頃から振られてばかりいた和真は、恋愛という意味で女子から好きと言われるはずが無いと思い込んでいた。
実際、蓮香の口から好きと言う単語が出たことは無かったので尚更だ。
結果として、理由は分からないが蓮香は自分の血が吸いたいだけなのだと結論を出した和真だった。
「とにかく嫌なもんは嫌だ!」
そう言い切って、文字通り脱兎のごとく和真は走り去る。
「あっ! 待ってよー!」
そしてそれを蓮香が追いかける。
こんな風に、毎日恒例となった放課後の鬼ごっこが始まるのだった。