―――誰だって1度は考えた事はあるだろう。
―――夢への渇望。そんな当たり前の渇望が、時として破滅を齎してしまったら?―――


 お前なら、どうした?  



・・・  



―――1981年の事だった。日本の関東、関西で起きた、最悪の事件だ。
“関東 関西大爆発”。突如としてこの2つの地方にとてつもない規模の大爆発が発生した。
 
そのあまりにもの規模と爆発によって、何人もの人間が死んだだろうか?  

…… 少なくとも、自分には分からないし、そんな事は分かりたくも無かった。  
“俺”はまだその時幼かったし、当然意識だって薄らだっただった。それでもあの“青い光”はよく覚えてる。
アレが何を意味していたのか? それはまだ、当分先の話なんだろうよ―――  



・・・  


―――“新関西”、“新関東”。爆発によって多大な被害を被ったこれらの地方、及び全都道府県の名が変更された。  

かつての新宿や池袋、関西なら大阪とか梅田だとかの地名は全て、地名の変更、及び海外からの移住者等に分かりやすく、かつシンプルに覚えさせるため、“第――区”と言った呼称に変更した。その地区内での別地区等の呼び方であれば、“第――区内 第――区”と呼ばれている。

首都は新東京の“第1区”。かつて“東京”と言われた大都会だが、現在は近未来風な建造物と歪なネオンに溢れた町となっていた。  問題はそれらに伴う“不良集団”や何かしらの団体の多発化であった。煌びやかな町とは裏腹に、スラムの多発化は、現代社会においての社会問題として、今尚も警戒が伴われていた。―――



・・・



新東京、“第3区”―――かつては新宿と呼ばれたその街の、“第3区内第4区”。

第3区内の南端には、とある高校がある。  “新青高校”。全生徒数は500名で、偏差値もそれなりに高く、いい大学にも進学しやすいことで有名な高校である。

第3区は過去に比べて治安が良く、富裕層やそれなりに金持ちな一般人等が住んでいる場所だ。  他の区内に比べ、人の活気にも溢れている。正に、“誰もが憧れる場所”とでも言うべきか。  

そんな学校に今年、入学して来た学年の生徒達はこれまで以上に期待が掛けられる程の成績を中学時代に叩き出している。  そして今年の新入生には、“高嶺の花”と称される生徒と、“孤狼”と称される生徒がいた。―――



・・・  



5月27日―――第3区内の南端、まだどこか都会っ気と近未来風な建物が残っているこの町に、新青高校はあった。

何人もの生徒達が徒歩や自転車で正門と反対の裏門から学校に入って行く。建物もそれなりに大きく、威厳をもある。  

紺のブレザーに、薄い緑の色のズボンを着た幾つもの群れの中に、“彼女”はいた。  

その彼女の事を、2人のある男子生徒が見ていた。  

「―――オイ、ありゃ“八坂ちゃん”じゃねえか?」  
「お!? ホントだ!」  

―――礼儀良く両手でカバンを持ち、赤のリボンネクタイが締められた、程よい位に整った上にいい大きさをした胸。紺のブレザーに薄緑の下に白いラインが入ったスカートを履いた、ポニーテール頭の大和撫子な彼女―――学園では、“高嶺の花”とまで呼ばれる1年、“八坂日奈多”。  

かつていた中学では常に成績トップで、文武両道で、その美麗な姿は当時から誰も彼も魅了されて、告白しにいったと言うが、全て断わったと言う逸話を持っている。その存在感は伊達じゃない。
「―――おーい! 日奈多ー!」  
そしてそんな彼女の後ろからやって来た挙句、抱き着いた女の子―――茶髪のショートヘアーに、言い方は悪いがボンキュッボンな魅力的な体付きに、可愛らしい顔をした同級生、“霧野来派”。  

「……あら、来派ちゃん。おはよう」  
「おーはよう! 元気ぃー!!?」  
「げ、元気よ……」  

……それを、遠くから見ていた男子生徒2人組は、後にこう言ったと言う―――

 “百合?”    



・・・  



―――朝のHR終わり、多くの生徒が廊下で話をしている中、日奈多と来派は教室からすぐの廊下に出ていた。  

―――クラスは1-A。成績優秀な生徒から順に、A、B、Cと3クラスに別れていく。―――

「ねえねえ日奈多ちゃーん。今からちょっと歩きながら話さない? また告って来ちゃいそうだしぃー?」  
「……なら、そうしましょうか」  
「よし! じゃあー行こう!」  

日奈多達は歩き出す。C組の方向、この学校は四方の形となっていて、中心には庭園があるのだ。C組の方向ならば、正門から見れば左側の方向だ。  

「ねえねえ、昨日また告白断ったんでしょー?」 「ええ。それが?」  
「何でなのかなぁって、相手はA組でも秀才でイケメンな武田君だったのに」  
「……あまり好かない雰囲気だっただけですよ」

 日奈多は、少し暗い顔付きになる。それを見た来派は、横から顔を除く様に日奈多の顔を見た。  

「……何かあったの?」  
「いいえ、私がただ彼の事を気に入らなかっただけですよ。決して何も知らない訳ではありません」  

日奈多の顔の笑顔が少し戻った。  

「あぁ〜分かった。日奈多の嫌いなイジメっ子って訳だ!」  
「まぁ、噂でしかありませんけどね……とは言え、信憑性が高くて……」  



・・・?????????



「―――ん?」  

その時、私、八坂日奈多の目に、“ソレ”は写っていた。―――  

―――ブレザー制の学校だと言うのに、黒い学ランを着こなし、短髪でボロボロのバンダナ? を巻き、庭園の木製ベンチに座っている男の姿を。  

その姿を見た時、私は、異様な感覚をその身に感じていた。―――  

「……来派ちゃん、あの人は?」  


そう私が聞いた時、―――来派は“震えていた”。  

「あ、アイツ……ま、“松岡、辰朗”……“孤狼”」  「松岡……辰郎?」  
「だ、ダメ……日奈多!! 近ずいちゃダメ! アイツには近ずかないで!!」

―――分からない。私には純粋に分からなかった。  何故来派がそこまで怯えているのか? 身体を震わせ、身を退けさせるほどにまでに、彼が恐ろしいのか?

益々―――“近ずきたくなった”。
 「日奈多!! あ、アイツは“第1区”出身の不良で……! だ、ダメよ!? 殺されちゃうよ……!」  

違う。そんな事じゃない。あなたが脅えている本当の理由じゃない。

きっとあなたにも分かってるのに、知りたくないなんて  

私を彼を知りたい! 知りたい! 知りたい!! シリタイ!!  


私は、あの男に手を伸ばして……―――  


「―――……そんなに知りたいなら、コッチに来て話をしたらいいだろ? 馬鹿みたいに手を伸ばして、どうしたんだ?」  


「それに、全く、そっちの子は良く“本質”ってのを理解しているのに、お前はそうでも無いみたいだな?」  


「まぁ、だがだ。八坂日奈多―――君に対しては“5度目”のおはようだよ―――歓迎だ」