白い空間が広がっていた。上も下もない、真っ白な世界。風もなく、雪景色のみの地球のようだった。自分の服装を確認すると、寝る前に着たものと同じただのパジャマ。冬用のもこもことした素材は、肌触りが良く温かい。
ぽた、と何かが落ちたような気がして振り向くと、少女が立っていた。身長がさほど変わらないことから、少女と言うのもどうなのかと躊躇してしまうが、私はその言葉以外に彼女を示す情報を知らない。覆われた顔のうち、少しだけ見えた輪郭からは、白く明るい部屋に照らされた煌めく雫が滴り落ちていた。
「大切にして」
また彼女の口元が、私に向けて動く。耳の中で自分の声が再生されるような違和感に、私は吐き気を覚えた。胃の中の混濁した感情が、食道を通して逆流してきそうになり、思わず胸元の服を握り潰すように掴み抑える。
「私が言ったこと、忘れないで」
声は止まない。まるで自分が話しているような錯覚を覚え、首を絞めたくなった。耳をいくら押さえようと、いくら首に手を伸ばそうと、私の声は延々と繰り返し、息が苦しくなることもない。目の前の誰かもわからない人物に洗脳されているのか、あるいは憑依されているのかもしれないという恐怖が私を襲う。
死ねない。目覚められない。終わらない。
「やめて!」
--ピピピピッ、ピピピピッ。
音が聞こえた瞬間、私は漫画でありがちな勢いよく体を起こして起き上がるという行為をしてしまった。そんな行動を実際に起こしてしまった自分に驚くとともに、立ちくらみのような症状で何も見えなくなる。しばらくすると、まだ目覚めきっていない脳が、はっきりと現実を見せてくれた。
肌触りの良いパジャマ。その手元を照らす、射し込んだ日の光。そして膝の上には、しっかりと布団が被さっている。
良かった、助かった。
ぼんやりと考えたが、この夢は何かを暗示しているのだとしたら。そう思うと、現実ですら夢に侵食されているような心地になってしまい、気が気ではなかった。