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もはや展開は読めた。
私はパソコンに向かって座っており、相も変わらずコメントを追っている。
そしてこれは夢であると、背後にいる何者かの気配に気付いて振り返った瞬間に悟った。
自室だったはずの空間が、いきなり真っ白な部屋へと変わり、窓も家具も、立ち上がった瞬間から椅子も消えてしまっていた。どこまでも広がる白い世界は、壁があるのかないのか、上下すらも分からない。ただ白い、そんな場所にクリーム色のパーカーを着た人物が一人立っていた。下を向いており、フードを深く被っているせいで、顔が一切見えない。背丈は私と同じくらいで、横髪が少し見えていることから、女の子であることは認知したが、それ以外の情報を視界から手に入れることはできなかった。
でもなぜか、私はその人物に親しみを感じたのだ。まるで自分自身と向き合っているような。そして、例のコメントの主も彼女であると、私の直感が伝えていた。
しんとした空気が流れる。私の体は動かなかった。彼女に近づくことが許されていないような。彼女に親しみは持つことができるのに、触れてはいけないと肌で感じる。
すると謎の少女は小さな声で呟いた。
「生きたかった」
およそ八メートルは離れていると思われる距離で、彼女の声は耳元で生まれたかのように、空気を裂いて届いた。
唐突に聞こえる重みを含んだ発言に、私は息をのむ。手がじわりと汗ばんだ。
「やりたいこと、まだまだたくさんあったのに」
矢で射られたと思うほど、強く、鋭く、耳元で鳴る。だが、いや違う、と思った。彼女は私の脳内で話しているのだ。聞こえる声は全て私の声で再生される。言わばテレパシーだ。
「大人になりたかったよ……」
脳内で弾ける声が弱くなる。なぜだか私まで、涙が瞳を覆ってきた。手を伸ばしたくて、抱きしめて守ってあげたくて、私はなんとか言葉を返した。
「だ、大丈夫?」
すると私の存在に気が付いたのか、ピクリと肩が動き、彼女は少しだけ顔を上げる。
きらりと一筋の涙が頬を伝い、何もない白い空間に落ちていった。
頬がくすぐったくて、何かを払うように目が覚めた。手についたそれを見ると、生暖かい透明な水滴。それが涙と分かるまで、そう時間を要しなかった。
壁に時計を見ると、起きる予定時刻の十分前だったため、私はそのまま布団と別れを告げて立ち上がる。床から素足に直接伝わる冷気が、目覚まし代わりとなった。
そこにはしっかりと家具があった。壁も、窓も、机に広がっているパソコンたちも。立ち上がり離れたはずのベッドも、消えることはない。
どうしてこんなにも同じ夢ばかり見るのだろう。それに、いつまで経っても終わらない。延々と続きがある。
連日のように見る同じ夢に、私は恐怖を覚え始めていた。