それから数日、沢木さんは本当に毎日、食料を持って顔を出してくれた。理恵は理恵で毎日やってきて、簡単な料理を作ったり掃除をしたりしてくれた。どこに泊まってるのか不思議に思って聞いたら、友達のところに押しかけてる、と言う。もう来なくていい、と何度も言ったけど、それには頑として首を縦に振らなかった。
 二人に世話を焼かれて、申し訳なく思いながら、俺はまだまともに生活することができなかった。トイレとか風呂とか、必要最低限のことはどうにかこなして、そのほかはずっとぼんやりと過ごす。二人がいるときはいつも通りの態度で振る舞えるのに、一人になると途端に動けなくなった。二人の前では飲み込めた食べ物が、一人になると途端に胃を圧迫して、全部吐き出してしまう。
 優衣の死が、日に日に実感を増してくる。喪失感が体の中を食い破って、そのうち空っぽになっていくような気がする。この世に自分以外、誰もいないような恐怖が波のように何度も襲ってきて、その度に心臓が握り潰されるように痛む。早く元に戻らなければ、と焦る気持ちと、このまま死んでしまってもいいと思う投げやりな気持ちが、交互に膨れて拮抗していた。
 そうやって過ごして、一週間くらい経った頃だっただろうか。昼間に、家のチャイムが鳴った。理恵だったら勝手に鍵を開けて入ってくるし、沢木さんだったら来る前に必ず電話をかけて来る。何かの勧誘だろうか、面倒で無視しようと思ったけど、何度もしつこく鳴らされるので仕方なくドアを開けると、そこには優衣のお父さんが立っていた。
 驚いて息を呑む。おじさんはそんな俺を見て、気まずそうに目を逸らした。
「突然訪ねてきてすまない。渡したいものがあって来た」
 とりあえず上がってもらって、どこに座ってもらうか迷った挙句、出窓の下に案内した。そこが一番広くて座りやすいからだ。
 俺がお茶を入れている間、おじさんは部屋の中を眺めていた。優衣の物は引っ越してくる時にほとんど処分してしまったけど、優衣が持ち込んだ、子供の頃から大切にしていたぬいぐるみだとか、家族で映った写真なんかは、おじさんにも見覚えがあったんだろう。目を細めて、じっと見ていた。