場所は車で二時間ほどのド田舎。行く前日にでも役場に連絡をくれれば、ご案内します、とのことだった。のどかなものだ。スケジュールを調整して、なんとか三日後に予定がたった。正直、早く決めてしまわないとそろそろやばい。間に合わない。
 鈴木さんも同行できるということで、現地の役場で落ち合うことにする。眠気と戦いながら、田園が広がる風景を横目に車を走らせる。
 鈴木さんは先についていて、役場の人と一緒に玄関で待っていた。どうやら役場の車で一緒に乗せていってくれるらしい。
「あんなところねえ、行きたがる人なんて滅多にいないんですよ。前に大学の先生だかがいらっしゃいましたけどねえ」
 人の良さそうなのんびりした話し声を聞きつつ、窓の外を眺める。見渡す限り、民家と田んぼと山で、しかも随分冬景色になっていて、丸裸になった木々が余計に寒々しい。気温も街中と比べたらひんやりしていて、これで雪でも降ったら相当寒いに違いない。
 車は山に向かってどんどん進んでいく。しばらくしたら民家さえ見えなくなって、本格的に山道に入った。枝が車の下でバキバキ折れる音がする。
 ーーこんなところに教会なんて、ほんとにあんのか、そんなもん。
 あってもボロッボロの廃墟みたいになってるんじゃないだろうか。ちらっと横の鈴木さんを見ると、同じように不安を浮かべて外を見ていた。
 走り始めて三十分くらいだろうか、木の間に、十字架のような形が見え隠れするのがわかった。着きましたよ、と言う声とともに現れたのは、こじんまりとした木造の教会。
 ーーほんとにあった。
 想像していたよりもきちんと保存されている。周りは草が生い茂ったその建物は、よくあるオーソドックスな形で、てっぺんに十字架が飾られていた。いきなり中世ヨーロッパに放り込まれたみたいだ。
 周りは鉄条網で囲まれていて、唯一フェンスになっている入口の鍵は役場で保管しているらしい。フェンスをくぐって入口に近づくと、閂みたいな大きな鍵を役場の人が開けてくれた。
 重い木の扉を押すと、ギギギギ、と年代を感じさせる音がする。
 中に足を踏み入れて、息を飲んだ。