「――ところで。なんで千尋のことだけ、下の名前で呼んでるの?」


 話題を移した柏木先輩は、不思議そうに私と未琴を見比べていた。


「えっと、それは……」


 確かに千尋先輩には『伊達(だて)』という苗字がちゃんとある。
 柏木先輩が疑問に思うのも無理はない。


「私が『千尋先輩』って呼び始めたから、結衣もそう呼ぶようになっただけですよ。ね、結衣?」
「うん。……特に理由はないんです」


 千尋先輩との方が仲が良いからとか、そんな話ではない。
 柏木先輩の場合は遠慮してしまって、呼び方を変えるきっかけが掴めないだけ。


「それなら。白坂さんのこと、これからは下の名前で呼んでいい?」
「あっ……、はい」
「僕のことも、蓮でいいよ」


 そんなやり取りをしていたら、向かいの千尋先輩と目が合って、フンと鼻を鳴らして笑われた。

 肘掛けに頬杖をついている未琴の方を見れば、初々しいとでも言いたげに唇を歪め、どこか大人びた笑みを浮かべている。