千尋先輩とは反対側――私の右隣に立っているのは、ついさっきまで村上さんと話していたはずの柏木先輩。

 薄く微笑みながらも、穏やかとは言いがたい瞳で私達へ視線を落としていた。

 今の会話を聞かれていなかったかと、額に汗が滲む。


「白坂さんのこと、いじめないでくれる?」
「……別に白坂は、お前のじゃないよな」


 私を間に挟みながら、二人は冷ややかにも見える笑顔を交わす。


「そうだね。僕のものではないけど、泣きそうな顔をしているみたいに見えたから、放っておけなくて」
「あ、あの。私なら大丈夫ですから」


 喧嘩になりそうなほどの空気に耐えきれず、おずおずと口を挟む。

 柏木先輩はゆったりと私の椅子の背もたれに片手をつき、身を屈め囁いた。


「千尋に泣きついたことがあるって本当?」
「あ……」


 やっぱり途中から聞かれていたみたいだ。


「千尋じゃなくて僕に相談して欲しかったところだけど……僕には言えないことだったのかな」


 どことなく陰を含んだ声が、すぐ近くから届く。微かに先輩の香りまで漂ってきて、心拍数が上がっていく。