不意に、先輩の胸元に抱き寄せられたことを思い出し、クッションに顔をうずめた。
仄かに香った柑橘系の匂いまでもが思い起こされ、幸せな気分に包まれる。
先輩と付き合っていた人……三井先輩との関係は終わっているという事実も、本人の口から聞けてホッとした。
だからといって、私が図々しくも柏木先輩の彼女になれるわけではない。
ただ安心して先輩のそばにいられることが嬉しかった。
――でも。中学のときからの“忘れられない人”というのが誰なのか。その問題が残っていた。
ベッドから立ち上がった私は、カフェカーテンの隙間から先程の橋の方向を眺める。
あのとき、真鳥が私達のそばを通って。
まるで彼に見せつけるかのようだったのは、気のせいだろうか。
もっと先輩のことを知りたいと思いながら、机の上に飾った絵をじっと見つめていた。