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side 蓮
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(やっぱり、忘れられていたか)

 彼女に気づかれないよう、控えめに溜め息をつく。


 中学のときに一緒に食べたチーズケーキのことも。甘いものはそれほど得意ではなく、ブラックのコーヒーがないと食べられないことも。

 全て、彼女の記憶には残されていないようだ。

 彼女にとって自分は、どうでもいい存在らしい。特別、記憶に残すほどではないエキストラと似た存在。

 そのまま諦めることも考えたことはあるが、忘れられているなら、また自分の存在を植えつければいい。
 今はまだ、そばにいられるだけで満足だから。


 それでも不思議なのは……僕の絵を好きだと言ってくれること。それは今も、中学のときも変わらない。

 あとは――、卒業間際だった僕からの告白を断ったにも関わらず、以前と同じように接してくれること。