(もう少し一緒にいたい……)
夕暮れに染まる先輩との帰り道。
欲深い思いが顔を出す。
偶然とはいえ、今この瞬間、先輩のことを独り占めしているだけでも充分幸せなはずなのに。
「今日は、ありがとうございました」
「僕も、一緒に行ってくれて嬉しかったよ。コーヒーも美味しかったし、また行こう」
身長差のある先輩を見上げると、柔らかく微笑まれて、照れくささに目をそらす。
『自分が誘ったから』と言って、結局先輩がケーキを奢ってくれて。何だか今日は先輩からいただいてばかりだ。
部活前にホワイトデーのお返しまでもらっているというのに。
「春休み、どこに行きたい?」
信号待ちのときにそう聞かれ、思い出す。
そういえば、先輩と絵の題材を探しに行く約束をしていたのだった。