先輩は私の使ったフォークのことを特に気にしていない感じで、優雅にケーキを口に運んでいる。
(間接キスなんて、先輩にはどうでもいいことだよね)
きっと、私のことはただの後輩の一人にしか感じていないはず。
あのとき部室に残っていたのが他の誰か――たとえば村上さんだったら。きっと彼女のことを誘っていたのだと思う。想像すると、微かに胸が痛んだ。
「白坂さん……、やっぱり覚えてないかな」
不意に先輩は、覗き込むように私の目を見つめてきた。
深い茶褐色の瞳が、店内の照明を映しキラリと反射する。
「何を、ですか?」
「中学のとき、白坂さんがチーズケーキを焼いてくれて一緒に食べたんだ。……美味しかったな」
「え。私が?」
チーズケーキを、先輩のために……焼いた?
全然記憶になくて、焦って脳内の引き出しを全て開ける勢いで探し回った。
先輩を傷つけたくないし、嫌われたくなかったから。
……でも、見つからない。思い出せない。