画材の片付けをしていたら、ふと気づけば皆、帰り支度を終えていて、すでに廊下へ出てしまっていた。
 残るのは私と柏木先輩だけ。

 わざと遅く片付けていたわけではないのに、二人きりのこの状況が気恥ずかしい。

 村上さんや千尋先輩も先に帰ったようだ。何となく柏木先輩と同時に部室を後にする。


「白坂さん。このあと、少し時間ある?」


 静かな廊下を歩いていたら、先輩がふと思いついた風に訊いてくる。


「はい。特に用事はないです」
「近くにカフェができたみたいなんだけど、良かったら一緒に行ってみない?」
「……え、行ってみたいです」


 思いがけないお誘いに、ためらいつつも返事をする。


「チーズケーキが一番人気があるみたいなんだ。白坂さん、好きだったよね?」
「はい、大好きです」


(チーズケーキが好物だなんて、先輩に教えたことあったかな)


 内心不思議に思いながら、とりあえず合わせておく。きっと千尋先輩辺りから聞いていたのだろう。


「先輩は甘い物、大丈夫なんですか?」
「……うん。わりと好きだよ、甘い物」


 少し間があってから、ゆっくりと言葉を選ぶように答えた。